健康と医療に関する総合情報サイト GCLEW.com (ジークルー・コム)

花粉症を合併した慢性副鼻腔炎の治療
花粉飛散予測と花粉症の治療における課題 表1 2005年の広島県の花粉飛散数予測

夜陣 近年、花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎の患者数の増加が著しく、有病率は総人口の10〜15%に達するとみられています。これに伴ってアレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎の合併例も増えており、その対策が大きな課題となっています。本日は、こうした現状を踏まえながら、花粉症を合併した慢性副鼻腔炎の治療を中心に話を進めて参りたいと思います。
まず花粉症ですが、前年と比べて今年は全国各地でかなり患者さんが増えていますね。

大久保 そうですね。スギ・ヒノキ花粉の飛散量は、前年の気象条件に大きく影響を受けますが、2004年の夏は観測史上最も真夏日が多く、しかも降水量が少なかったことから、2005年は大飛散が予測されていました。そして、予測通り今年は飛散量が多く、花粉症の患者さんも非常に多いです。

夜陣 確かに、花粉の飛散量は前年の気象条件に大きく影響を受けるのですが、前年の気象データだけでは予測できない場合もあります。我々は1991年から毎年、広島県の飛散状況を調べていますが、大飛散の年では、前年の夏の気象データだけでは予測の精度が低くなるようです。広島市における2005年の花粉飛散量の予測は、2004年の夏の気象データに基づくと、平年よりやや少なめとなりますが、山形県衛生研究所の高橋裕一氏らの考案した補正値(前年―前々年データによる予測)を用いて平年の約3倍と予測しました(表1)。

大久保 前年の気象データだけでなく、さまざまなデータに基づき、より正確な飛散量の予測を行うことが、今後の課題だと思います。
花粉症の治療に関しても、今回取り上げる慢性副鼻腔炎の合併例などに対する治療法の確立が課題として残されています。

慢性副鼻腔炎患者の約4割がアレルギー性鼻炎を合併 表2 アレルギー性鼻炎における慢性副鼻腔炎の合併率

夜陣 さて、今年は花粉症の患者さんが多いようですが、花粉症により慢性副鼻腔炎は悪化するのでしょうか。

大久保 慢性副鼻腔炎に花粉症などのアレルギー性鼻炎を合併すると、慢性副鼻腔炎が悪化することは、既に先生方の研究で明らかになっています。一方、花粉症の患者さんがウイルスや細菌感染で急性副鼻腔炎を起こし、炎症を繰り返すことで慢性化する場合もあります。このような患者さんでは、くしゃみや鼻水はむしろ軽減し、後鼻漏や鼻閉がよりひどくなる傾向がみられます。

夜陣 慢性副鼻腔炎に花粉症を合併する場合と、花粉症から慢性副鼻腔炎が誘発される場合の2つのタイプがあり、病態が微妙に異なるということですね。それはとても重要なご指摘だと思います。

大久保 いずれの場合においても、花粉症が慢性副鼻腔炎を悪化させる重要なファクターになっているという点では同じです。

夜陣 そこで、両疾患の合併率ですが、1996年に慢性副鼻腔炎と診断された患者さんを1年にわたって調査したところ、小児では2人に1人、成人では4人に1人がアレルギー性鼻炎を合併しており、全体での合併率は37%でした。一方、アレルギー性鼻炎の患者さんについて調べると、やはり37〜38%に副鼻腔の異常陰影が認められました。

大久保 当院のアレルギー外来においても、アレルギー性鼻炎の患者さんでは慢性副鼻腔炎の合併が高頻度で認められました(表2)。

夜陣 先生はアレルギー性鼻炎の患者さんのQOLを精力的に調査されていますが、慢性副鼻腔炎を合併した患者さんでは、QOLがさらに低下するのでしょうか。

大久保 花粉症の患者さんは鼻粘膜の過敏性が高く、くしゃみ、鼻水の症状が主体ですが、慢性副鼻腔炎を合併すると、後鼻漏による鼻閉が主体となります。患者さんにとってはこちらのほうが辛く、QOLがさらに低下することがわかっています。

マクロライド療法と抗アレルギー薬の併用で優れた効果
―マクロライドの使用は3ヵ月が目安― 表3 アレルギー性鼻炎を合併した慢性副鼻腔炎に対する処方例

夜陣 では、次に治療のほうに話を移したいと思います。慢性副鼻腔炎には14員環マクロライド系抗菌薬の長期投与(マクロライド療法)が広く行われていますが、先生はこの治療法をどのように評価されていますか。

大久保 鼻腔形態に異常があるとか、鼻中隔に極端な彎曲があって自然孔が開かないという場合を除けば、有効率が70〜80%にのぼりますから、私は非常に優れた治療法だと考えています。

夜陣 それでは外来で慢性副鼻腔炎と診断されれば、まずマクロライド療法を開始されるわけですね。

大久保 副鼻腔内の分泌液が粘性あるいは漿液性の場合は、躊躇せずマクロライド療法を行います。最初の1〜2週間は常用量を投与し、その後は半量に減らして3ヵ月間継続投与します。

夜陣 アレルギー性鼻炎を合併している場合は、どのように治療を行っていますか。

大久保 もともと慢性副鼻腔炎があってそれにアレルギー性鼻炎を合併した症例では、マクロライド療法に抗アレルギー薬を併用します。
一方、花粉症の患者さんが途中から慢性副鼻腔炎を合併した場合は、抗アレルギー薬を処方しながら、分泌液を調べ、もし膿性であれば病原菌を同定し、その病原菌に感受性を持つ抗菌薬を投与します。しかし、分泌液が粘液性あるいは漿液性であればマクロライドを投与します。この時、マクロライド療法と併用する抗アレルギー薬ですが、肝代謝に影響を与える薬剤は避けるようにしています(表3)。

夜陣 マクロライドの投与期間はどのようにお考えですか。

大久保 3ヵ月を目安としています。

夜陣 我々も、慢性副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎の合併例には、マクロライド療法と抗アレルギー薬の併用を行っています。以前、その効果を経時的に検討したことがありますが、1ヵ月後よりは2、3ヵ月後のほうが治療成績は良好で、投与3ヵ月後には小児で約44%、成人で100%という高い有効率を得ました(図1)。
さらに、小児においては併用治療を継続した結果、症例数は限定されますが、8ヵ月後の有効率は83%にまで上昇しました。成人、小児のいずれにおいても、投与初期に症状の悪化がみられたとしても、治療を3ヵ月間継続することで、多くの症例で有効性が認められることを確認しています(図2)。マクロライドを最低3ヵ月は継続して使ってみることが重要であると考えています。

大久保 私も全く同様に考えています。

図1 マクロライド療法と抗アレルギー薬の併用における有効率 図2 マクロライド療法と抗アレルギー薬の併用における有効性の経過(3ヵ月間) 症状や病態に応じた適切な使い方を
―漫然とした投与は避ける― 図3 アレルギー性鼻炎に慢性副鼻腔炎を合併した症例(29歳、女性)

夜陣 ここで1つ、先生にアドバイスをいただきたい症例があるのでご紹介します(図3)。患者は29歳の女性で、最初、花粉の飛散が非常に少なかった1994年5月に花粉症の治療で受診されました。X線所見では副鼻腔に陰影を認め、副鼻腔粘膜に好酸球の浸潤が認められました。しかし副鼻腔炎の症状はほとんどなく、この年は抗アレルギー薬のみの投与を行いました。
ところが、花粉が大飛散した1995年の2月に、風邪を契機に副鼻腔炎の症状が悪化し、再び当科を訪れました。調べると少し後鼻漏があり、中鼻道に少量の膿性の分泌液がみられ、副鼻腔粘膜に著しい好中球の浸潤がみられました。そこで前年と同様に、花粉症に対しては抗アレルギー薬を処方し、同時にマクロライド療法を併用したのですが、全く効果がみられず、抗菌薬も奏効しませんでした。打つ手がなく困ったのですが、経口ステロイド2錠を2回投与したところ、翌日から症状が軽快し、以降再びこれまでの抗アレルギー薬とマクロライド療法の併用により症状が改善しました。さらに8月のX線所見では、軽度の浮腫状変化を認めるのみとなり、浸潤細胞数は減少し、再び好酸球が有意となっていました。この症例の症状と治療の経過について、先生のご意見をいただけますでしょうか。

大久保 アレルギー反応と同様の現象が副鼻腔粘膜にも起こり、そのうえ慢性副鼻腔炎の急性増悪にもアレルギー性鼻炎が深く関与することを示唆する興味深い症例だと思います。
この症例の場合、好酸球が優位な時期と好中球が優位な時期が変化していますが、慢性副鼻腔炎の治療は、これらの遊走細胞の状況や、それによってどのような症状が起こっているかをしっかり把握した上で実施することが重要です。先生がこの症例において急性増悪が認められた際に経口ステロイドを使われたのも、その悪化する原因を遊走細胞にターゲットを絞られたからだと思います。マクロライド療法は優れた治療法ですが、粘膜が腫れているから、慢性副鼻腔炎だからという理由だけで投与していては、十分な効果を期待できません。

夜陣 マクロライドについては今、耐性菌が問題になっていますが、それを防ぐ意味でも漫然と投与しないことが大切ですね。

大久保 おっしゃる通りで、そのためにはマクロライド療法が奏効する患者さんをいかに見極めていくかが重要になってきます。

夜陣 それから小児の場合ですが、コンプライアンスが不安定であるだけでなく、副鼻腔粘膜に浮腫状の成分が強いなど成人とは病態が異なるため、有効率がやや低下します。先生は、小児に対してどのように使っておられますか。

大久保 花粉症などのアレルギー性鼻炎を合併している場合でも、クラリスロマイシンのドライシロップを長期投与しています。鼻水が軽減し、すっきりするという小児が多いようです。ただ、成人と同様、効果がないのに漫然と投与することは避けています。

夜陣 投与期間は2〜3ヵ月ですか。

大久保 原則として2〜3ヵ月ですね。

夜陣 花粉症の治療に関しては、優れた抗アレルギー薬の開発により高い有効性が期待できるようになりました。しかし、今回取り上げた慢性副鼻腔炎の合併例では、まだ治療法が確立されておらず、その対策が耳鼻咽喉科医にとって大きな問題となってきています。本日は、こうした合併例の治療について、非常に示唆に富むお話をいただき、私自身大変勉強になりました。本当にありがとうございました。